現代音楽と物理

渋谷慶一郎さんという方は、現代音楽の若きカリスマ。全く無知な私は彼と同じ場にいながら、ということを後で知った。その彼が7日、芸大美術科で講義をした。(茂木健一郎講座のゲストとして。渋谷氏は音楽科卒)現代までの音楽の流れをざくっと説明してくださったのだが、思い当たることがあり、おもしろく聞いた。そして、実際に音を聞かせてもらった。初めてだが、違和感はあまりなく、宇宙物理学者の佐治晴夫さんから聞かせてもらった、「宇宙の風(音に変換した)」の音に似ていた。粘着のあるリズムはなんだかこころにペタンと烙印されたような感触。気になる音質。

授業はまず始めに、基本の基本「ドローンとメロディ」についてを説明してくれた。ドローンとは変わらないもの、例えば規則的なリズムなど。それに対してメロディは、パートを違えながらも、変化、展開していくもの。そのことを「差異と反復」という言葉に置き換えて説明してくださり、そういう構造だったのねと改めて認識。メロディ部分が多様に変化、複雑化した先に、反復が見直され、同じリズムの反復が主流の時期があった。それからまた、形式のないようなものから、偶発的なものへと、現代性を求めてきた音楽の流れ。フムフム。

さてそこで、現代の最先端にいる渋谷氏はドローンとメロディの間に位置するものを模索しているようだった。二項対立の間に入る、第三項てきなもの。彼は電子音での作曲をしている人だが、元の素材はアナログからとるようだった。例えばピアノのベダルを踏んだ時の残音を重ねていく。そのように創り出された音を、「これはあり、なし」とチョイスしていく。そのチョイスする作業過程は茂木さんが言うところの“おばけ”が関わっている気がした。(記述不能な世界という意味合いと解釈)その結果を振り返れば、全く未知の音ではなく、過去的、未来的な既知の音、つまり彼が聞きたかった音であると言われる。フムフム。なんだかわかるような気になる。

で、その場には物理学者の池上高志さんもいらしたせいもあるのか、私は渋谷氏の話に、非線形とかカオス理論とかフラクタルのことが重なって聞こえてきた。60年代に、音符を規定するのではなく、邦楽のように、音の流れだけを記した楽譜の試みがあったが、その欠点は、メチャクチャに聞こえてしまうということだと言われたので、可笑しかったが、きっとカオス的なものであったのだろうと想像した。池上さんと渋谷さんとのコラボの構想もあると聞く。楽しみにしていよう。