速すぎた人々

見かけると、ふらりと立ち寄ってしまう古本屋。
部屋には未読本が溢れ、いつも「もう買うまいぞ」と思って入るのだが、ついつい一冊二冊と小脇に抱えてしまう。このごろはもっぱらブックオフ。今回も何冊かをレジまで。

池田晶子河合隼雄中島梓・・・気がつけば、近年鬼籍に入った人ばかりである。特に中島梓栗本薫も)は初体験なのだった。なんとなく手に取る気になったのはやはり訃報に接したからだ。『ガン病棟ピーターラビット』。ずっと病室で一緒にいた夫からの贈り物、ぬいぐるみのピーターラビットたちからタイトルがつけられている。


これが最後の作品になるのだろうか。内容は軽いタッチで、入院の顛末から日記のようにして書かれている。最初は彼女自身も入院経験のある大学病院の快適な部屋で、お気軽な気持ちで病棟の様子を綴っている。30代で乳がんを経験し、とても順調に経過してきていたが、検査の結果、がんの再発とわかる。今度は胆管部で、高度な手術のため、がんセンターでの手術となる。だが、がんセンターでの生活は予想を裏切り入院生活は一変、過酷なものになる。


闘病記としては書いていないと言うように、それでも彼女はこの本の最後まで、まだまだ余裕や希望を感じさせ、日常をひとりのウォッチャーのように書いている。ちょっと癖のある彼女だけれど、とても素直にこころの移ろいが伝わってくる。ところが、運命は最後の最後に最悪の結果をもたらすのだった。日付の最後は2008年2月17日。


あとがきは、それから日が経ち、6月27日となっている。事態はさらに悪化し、胆管及び、がんが疑われたすい臓の一部を切除したものの、すい臓がんから肝臓に転移してしまったのだった。それから2009年5月の訃報まで一年足らずである。速い・・・


彼女の「やはり私は生きていることが好きだ」といった率直なことばやら、夫への素朴な感謝のことばやら(ピーターラビットのエピソードが、今となれば哀しい)、どんどん自然を愛でる想いが増していくこころの変化やら・・。それらはこちらの気持ちもやさしくしてくれる。反面、手術の際の様子はまるでロボットにされたようで読むのもつらい。現代医療の現場はこういうことになっているのか・・、と考えさせられる。できることなら避けたい。


しかし、このところ訃報を聞くたび、年齢の若いことに驚く。一世代飛び越えている感がある。これは不幸である。さて、この事態、何を意味しているのであろうか・・。


ガン病棟のピーターラビット (ポプラ文庫)

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死とは何か さて死んだのは誰なのか

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2001年哲学の旅―コンプリート・ガイドブック

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こころと脳の対話

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