冷汁と記憶

昨日は早朝から汗ばむほどの猛暑。ひさびさのラッシュを体験する。自律神経失調気味の身にはキツイ。見苦しいほどの汗が止まらない。何も口にせぬまま家を出たので、昼食はお米が食べたくなった。
味噌汁がウリの店に入る。数種のなかから冷汁を選んだ。まずは一口。「おいしい!」。冷たい汁が食道をつつーっと下りていく。

瞬間、あの時の感覚が私のからだを包み込んでいた。
“あの時”とは母方の田舎の家で過ごした夏の日々のことである。小学生時代の夏休みは、仕事の父以外の家族で、両方の祖父母宅で過ごしていた。私はそのころ農業をしていた母方の祖母の家がなぜか気に入り、従兄弟たちが集まる父方の家には行かず、ひと夏をひとりで過ごしたことがあった。冷汁の味は私をそのころに連れていったのだった。

冷汁はきゅうり、みょうが、煎りゴマに夏野菜などが入ったダシのきいたつめたい味噌汁。だが家では冷汁など食べたことはない。冷汁じたい最近知ったことである・・。でもなぜかあの夏休みの日に私はいた。たぶん味噌とダシが田舎の祖母の味につなごるものだったのだろう。あるいは朝は暖かかった味噌汁を昼に冷たいままを飲んだ、そのときの味だったのかもしれない。因果関係はよくわからない。ともかく冷汁はそんな記憶を連れてきた・・・

記憶の喚起は何がきっかけになるかわからないものである。そして味とか匂いといった五感の感覚は、さらにショートカットで記憶をつなぐ。