生涯一学者

いっとき梅原猛の本を読んでいたことがある。このごろは読んでいなかったが、講演のお誘いがあり、行ってきた。彼は80歳をすぎて、益々研究に精力的であった。

最近足で歩いた京都の本9巻を出版した。文献を読まずに、まず現地に行く。文献を読んでいくと、先入観で情報を捨ててしまうことがあるからだという。そういう仕方で、ずいぶんと貴重な出会いをしたそうだ。

また彼は自分の研究を振り返り、古代史に偏りすぎたと反省する。「古代史だけの研究には重大な欠陥があった。仏教が日本にほんとうに普及したのは、中世の室町時代だ」と。すでに梅原学を確率しているような地位にある彼が、素直に自分を省みる柔軟さに、驚く。

そしてこう言う。「中世の文化を生活文化と捉えた林屋辰三郎氏の指摘がようやくわかってきた。内藤湖南が『日本文化、思想の自覚は室町だ。それ以前は日本文化とは言えない』といったことに反発して、中世を軽視していた。しかし、一面、正しい主張だった」。

梅原学を確率してきた大家が、素直にこう発言している。それは稀有なことではないか。そしていま世阿弥の研究にのめり込んでいるという。研究に対する真摯な態度が、伝わってくる。

そして、いただいた資料の中で「京都から人間の喜びや悲しみを肌で感じ、深いところで知る人が増えれば、安っぽいナショナリズムは間違いだとすぐに気がつくだろう」と言っている。

京都発見〈1〉地霊鎮魂

京都発見〈1〉地霊鎮魂

京都発見〈2〉路地遊行

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