クセになる部分

転居して変わったのは、本を読まなくなったこと。いや、読まなくではないな、読めなくなったと言うべきか。つまり通勤時間が短縮、そのうえ乗り換えが増えたため、おちおち本を広げていられないのだ。で、ちまちまと読むことになる。文庫か新書版か、冊子が重宝。

たまたま知人が貸してくれた岸本佐知子『気になる部分』。これがメチャ気に入ってしまった。なんだか読み終わるのがさみしくて、さらにちまちま読んだ。もともと『ねにもつタイプ』の連載を読んで気に入っていたので、知人が貸してくれたわけなので、予想はついていたが、通して読むとおもしろさが増す。

そのおもしろさとは、ゲラゲラ笑うというのとはちょっと違う。「ヘン!だけど、わかるなぁ、それ」とか「ヘン!だけど、あるよそういうこと」とか「ヘン!だけど、なんだかこころに残るよね」というような感情。特異な視点から予想を越える展開。が、そこで出会うのは自分にも重なる感情だったりする。

ともかく岸本女史は幼いころの感情をよく覚えている人だ。子どもは大人より優れた感性を持ち合わせていると改めて思う。大人は「ヘン」で片付けてしまう感情だが、似たような感覚はだれでもが持ち合わせていたのではないだろうか。普段は忘れているにすぎない。

ただ彼女はそれらを人より微細に記憶にとどめている。そして、その収納庫への入り口をよく知っている。誰も気づかないような路地裏の小さなすき間を…。

最初の「空即是空」で、彼女の思考のクセが明かされる。続くマイナーネタ、ネガティブネタ、孤立ネタ、自虐ネタ、妄想ネタ・・・。そのスタートが何気に以降の道案内になっている。そこまではないよなぁ〜と思いながらも、気がつけばキシモトワールドに没入しているのである。例えば「猿の不安」という掌編。格別にヘンな話なのであるが、ちょっと引いて考えてみると、似たような空想をしていた自分を思い出す。もしかして・・・私も・・・。

ほんとうはコワイ本なのかも知れない。

気になる部分 (白水uブックス)

気になる部分 (白水uブックス)

ねにもつタイプ

ねにもつタイプ