「ちぇっ!」と思って進む

プロフェッショナル 仕事の流儀 (2)茂木健一郎×佐藤可士和×住吉美紀鼎談。
住吉嬢はNHKのアナウンサーで、佐藤氏は新進気鋭のデザイナー。大手企業飲料、携帯、店舗などのデザインをしている。その二人をゲストに迎え、ホスト茂木健一郎という趣向だ。街に出た「プロフェショナル」といったところ。


結論から言えば、基礎基本を押さえ、核心に迫っていった、いい鼎談だったと思う。


超多忙の佐藤氏が仕事に向かう姿勢、仕事の仕方は、とてもすんなりと入ってきた。至極あたり前のことだったからだ。が、それに至った境地は、自身の試行錯誤によるもので、彼のリアル体験から獲得され、発せられた言葉は実(じつ)のある、こころに届く言葉であった。

彼は究極的には知識とか経験の有無というより、コミュニケーションセンスだと言われる。(同感。何事においても、コミュニケーション力の問題だと思うに至り、人、もの、ことなどとの距離のとり方如何であるとつくづく思うこのごろ)センスがないとは、事に対する感情の当てはめが間違っているからだという。ある事がらに対し、悲しみ、怒り、喜び・・どういう感情を生み出すのか。それは自分がどうしたいかにかかってくる。つまりどういうヴィジョンを持っているのか…。


ミクロとマクロの客観的視点を持ち、それを行き来させながら、場を読む。人や事と関わっていく過程で、コミュニケーションセンスがいいとは、相手にストレスを与えないようにできるかどうかとも言われる。それが、豊かな場となって反映していく。そして場の流れがよくなれば、ことは順調に運び、結果的に感情を害さず、自分にもストレスがかからないことになる。(その通り!だが、そう簡単なことではないはず。そういう志向性ということで・・)。


しかし、佐藤氏が常にエネルギッシュで、アクティブな態度でいられるのは、場を読むことができ、TPOを使いこなせるようになったからだろう。彼の言う「感情をデザイン」することができている。なぜそういう思考を経験してきたかというと、効率・合理主義だからではないかと言う。佐藤氏は本来はコミュニケーションが苦手。だからこそ、問題をややこしくしたり、感情をこじらせたり、関係が切れることを避けたかった。むだに時間とエネルギーを使いたくなかった。そうならないために「感情デザイン」をする。とてもよくわかる。


しかし、そう心がけていても、何時も順調というわけにはいかないだろう。そういうときはどうするのかという問いに対して佐藤氏は、「ちぇっ」と思うと答えられた。これは私的にヒットな回答だった。例えば彼は赤という色を使うために、何十種類の赤を検討し、「これ」というものを決めていく。しかし、クライアントや営業職など立場の違う人からみれば、赤の違いなど些細なことである。そういう位置を承知しながら望むのだ。(クリエーターにはなかなか難しい態度である)


それほどのこだわりを持ち事に望むわけだが、受け入れられないことも多々ある。そういうときは「ちぇっ」と思い、即座に次に進むというのである。そこで、思い切りよく、自分の思いを捨てるのだそうだ。思いを引きずらない。忘れる。とは言え、常人にはそう簡単にはいかないこと。佐藤氏はそれをゴールを変える、評価軸を変えると表現する。もう一度、自分の位置、置かれている場を客観的な視点で見直すということだろうか。自分が何をやろうとしているのか…。そして、評価軸を変えたところに、新たにおもしろさを見出していく。


このようなこころの作業プロセスといったようなものは、私にはとても共感できる。しかし、だからといって、ただ妥協をして自分を捨て、流されていくのとは違う。彼の根本は譲らない。ブレないのだ。そこが私と大きく違うところである。自分に念を押すいい機会になった。