子どもに媚びない文化

知人Aさんが、山折哲雄『「歌」の精神史』「歌」の精神史 (中公叢書)を読んでの感想を書いていて、その中に北原白秋「金魚」が紹介されていた。

 
    「金魚」
母さん、母さん、どこへ行た。 紅い金魚と遊びませう。

母さん、帰らぬ、さびしいな。 金魚を一匹突き殺す。

まだまだ、帰らぬ、くやしいな。 金魚を二匹絞め殺す。

なぜなぜ、帰らぬ、ひもじいな。 金魚を三匹捻じ殺す。

涙がこぼれる、日は暮れる。 紅い金魚も死ィぬ 死ぬ。

母さん怖いよ、眼が光る。ピカピカ、金魚の眼が光る。


「童心」を持って、人妻と不義密通を起したとして逮捕され、 地をはい回るような苦悶の生活を送った白秋の「童謡」である。
一読すると残虐きわまりないが、母に対する愛情の具現化として
子供の残虐性にのせて、白秋は「心の中で涙を流している」のだ。
…とAさん。

ドキンと胸が打たれるようなせつなくて、スゴイ内容です。

先日unacameにて行なわれた昭和短編アニメ上映でも、子ども向けのわりにシュール。その場で販売していた復刻絵本初山滋著『たべるトンちゃん』たべるトンちゃんもスゴカッタ。森達也『いのちの食べ方』絵本版のよういのちの食べかた (よりみちパン!セ)。リズミカルな擬音を発しながらシリアスな終結へ。

昭和30年代以前ではあるが、デザインもストーリーも、ナンセンスぶりも、新しく、子どもに媚びてない。そんな気がする。