笑える技

べてるの家から吹く風』「べてるの家」から吹く風の出版記念の対談に行く。著者のソーシャルワーカー向谷地生良氏と田口ランディさん。向谷地氏はいまは大学でも教える身だが、北海道にある精神障害者の自立支援コミュニティ“べてるの家”をはじめた人である。そのいきさつをはじめて単独で著した。読後感としては、医学者向けではなく、個人の28年の奇跡のような感じで、よかった。

ランディさんがべてるとはアイヌの調査からつながったという話からスタート。やはりアイヌの人たちのアルコール依存は深刻で、それも代々に渡り、悲劇を生んでいる、その絶望的状況下で向谷地さんもソーシャルワーカーとしてスタートしたという話。

きちんとした道筋のある進行ではなかったが、自ずと“信じること”と“死と出会う”ことにフォーカスしていった。今まで何度となく講演を聞いているが、今回はすこし視点の違った話が聞け、改めて思うことがあった。

「信じる」ということは、まず諦めることから始まる。昔『絶望こそが希望である』という本があったが、それを地で行く。ランディさんは自身がとじこもりの末、亡った兄とアルコール依存の父親という境遇に大変苦労してきた人である。その体験とべてるに出会ってからの獲得した見方で話されることが、向谷地さんの想いを補強する。

悲惨な状況に、いつも「何とかしたい」「何とかされたい」と思い続けてきた。しかし、何とかって、どうなったらいいと思っているのか、具体的には見えていなかったと言う。自分はどうなってほしかったのか・・。そういう状況で笑えることなど考えられない。

けれど、べてるにはユーモアと笑いが絶えない。それはどうにもならない状況にトコトン絶望する。底をつくまで諦める。深刻にならないためには笑うしかない。そこからやがて光が見えてくる。

(つづく)