寂聴さんの無念

新聞に瀬戸内寂聴さんが先日急逝した久世光彦さん蕭々館日録との事を書いている。彼はライターではなくマッチで火をつけて煙草を吸いたい人だった。近ごろはそのマッチが手に入らないとエッセイに書かれていたそうだ。そこで彼女は以来、寂庵制のマッチに加え、旅先でもマッチを見つけると久世さんにと持ち帰り、袋にためていたそうだ。

それがいっぱいになったら、いきなり届けてびっくりさせてあげようと、渡さずにおいた。旅のたびに久世さんのことを思いだすうち、親愛感が増し、幸福な気持ちでそれを楽しんでいた。
ところが、久世さんは今月2日に突然帰らぬ人となってしまった。寂聴さんは「なぜ少しでも前に手渡しておかなかったのだろう」としきりに悔やむ。

彼女の胸がつぶれるほどの無念の気持ちがこちらにも伝わってきて、私まで口惜しい気持ちになった。タイトルは「渡しそびれた冥土の土産」。その土産は数えてみると122個にもなっていたという。嗚呼。

悲しいけど、いい話。