美しい時間(とき)

茂木健一郎氏の講座最終回はたいてい対談である。今回のお相手は布施英利芸大教授。マンガを解剖する (ちくま新書)芸大で何度か姿を拝見してはいるが、お話を聞くのははじめて。彼は養老孟司氏にあこがれて解剖に引かれ、今は亡き三木成夫氏に付いて学んでいる。風貌は独特で、あのフジタ画伯を彷彿とさせる。

私は三木成夫氏からたくさんの影響を受けた。ISBN:4121006917,内臓のはたらきと子どものこころ (みんなの保育大学)同じ学び舎にいたことがあると気づいたのは、すでに亡くなられた後。残念! 対談は期待以上のものだった。ピカソセザンヌ論。脳幾何学論。生命記憶・内蔵感覚論etc 線についての議論もなかなかおもしろかった。

いくつか感想をピックアップ。
・美、芸術作品は宇宙のハーモニーにチャンネルを合わせること。そのチャンネルから宇宙とのつながりを感じられたとき、人は幸せを感じると言う。それが「美」というものであり、美しさと表現されているものなのだろう。そうだとすれば、「美しい」とは単に表層的なフォルムだけではないことは明らか。なにかこころ(布施さん流に言えば、内蔵感覚、腹感覚)に訴えるもの、となるのか。脳の中にも宇宙のハーモニーは刻まれていて、それを響かせることが、美であり、快になるという。

・情報に置き換えられるものしか現代では扱えなくなっている。そこから抜け落ちたもの。例えば書や絵には描き続けた重みというようなもの。毎日毎日何万回も書き続けた末、獲得した身体感覚としての手の動き。それは手法ではない。表現不能なものである。

・私は絵に詳しいわけではない。しかし、文脈などなくとも作品(自然現象も同様)によって、衝撃とも言える感動を受けるときがある。それはなぜなのか…ずっと不思議でならないのだ。茂木さんはそれを科学的に説明しようという、とてつもなく困難なことに向かっているようだ。それも見通しはあるというのだから…(驚)

・因みに布施さんが好きな絵は「最後の晩餐」と「ゲルニカ」。「そこにすべてがある」からだそうだ。美しい時間(とき)だった。