包丁一本、晒しに巻いて〜

斎藤美奈子読者は踊る』を開いた。「本書をお読みになる前に」という章がある。いくつかの項目が挙がっていて、それに10個以上○がついた人は「踊る読者」(踊らされている?)だというのだ。ヤバイ。心当たり多数。
・空いた時間書店でつぶすことがある。もちろん。・喫茶店や列車で何も読む本がないと寂しい。・ベストセラーはなるべく人に借りて読む(だいたい読まないしー)・読みかけて途中で止めた本が何冊もある。・上下二巻だったら、最初は上巻だけ買う。なんて項にドキッとする。さらには・本はあとがきから、文庫本は解説から読む。に至っては「あなた見てたのね」って感じだ。
一章はカラオケ化する文学ー「消えゆく私小説の伝統はタレント本に継承されていた」とか「芥川賞は就職試験、選考委員会はカイシャの人事部」といったタイトルが並ぶ。たくさんの本を取り上げ、バサリバサリと切り捨てる技はたいしたものだ。小気味よい。え、こんなのまで取り上げちゃうの、とこちらが引くようなものまであって面白い。

何しろ「本はあとがきから読む」人なのでちょっと後を読んでみる。ふうん、雑誌『鳩よ!』の連載だったんだ。最初は読んでいたのだけれどなぁ…記憶にない。その中に「つくづく本は消耗品だなと思わざるを得ない」という言葉がある。これらは95年前後の執筆だが、いまの彼女なら「つくづく作家は消耗品だ〜」と言っているのではないだろうか。芥川賞の章などと重ねながら実感する。

私が手にしているのは文庫本なので、単行本のあとがきと、さらに文庫版のあとがきが加算されている。それによると、文庫化に際して、鮮度が瞬く間に落ちる時評文に対して防腐処置をほどこしたとある。当時の文章の後に、新たな続編が加えられているのだ。現代までの流れを感じたり比較ができて、味わいがまたひとつ増している。

彼女はとびきりの板前であった。料理の腕はもちろん、美味しく食べてもらうためのこころ使いが、またいい。