道具を使う切実

涼しい日があると、暑さが堪える。日がなゴロゴロ。

日がなごろごろといえば、たまたまTVでらっこの生態を見た。プカプカと海に浮き、腹の上で石を使って貝を割って食べる。その仕草が「かわいい!」と人気だが、「かわいい」なんてのんきなものではなかった。哺乳類が海に入った最後の動物で、かわうそに近いそうだ。しかし魚をとる俊敏さもない上、すでに海にいる先輩達をしのいでえさをとることもままならない。仕方なく、誰も食べないウニや貝やのろまの蟹を食べざるを得なかった。そこで道具を使うことを開発したのである。プカプカ浮くのは3分くらいしか水中にいられないためであり、体温が低くならないためであった。体温を下げない為に体毛が長短の二重構造になっている。忙しなくからだをかいているのは、その間に空気を入れ、体温を保つためだった。そして毛がない手の平を常に水上に出しているために、ばんざいポーズになったわけである。

仰向けに浮いていることや、いつも手を動かしてからだをかいている仕草や、腹の上でコンコンと石で貝をたたいている行為は、すべて生き延びる為。それをやめたら「死」に至るのだった。「かわいい〜」なんておいそれと言えない厳しい現実。

さらに感動したのは子育て。なんと生まれたては泳げない。半年はピッタリと母親のお腹の上にいる。乳を飲んだり、海草につかまりながら、えさをまっていたり。しかしやがては子離れしなければならない。母親は安全な場所を選び、ある日消えてしまう。母を呼ぶかなしい鳴声。

他の親子に擦り寄る子ども。なんとその親はえさを分けてあげるのだった。しかも乳まで。動物が他人にえさを分けるなんて考えられない。特にらっこは体温を保つ為にも体重の20%の食物を取らないといけないそうだ。それも貝とか、うにといった小さなえさで。飽食時代の人間としてこころ痛い光景だ。そしてやがてその親も子を離して去る。