パペ教授

『ハイスクール1968』の四方田犬彦氏はいまイスラエルの大学で教えている。ずいぶん前に韓国の大学でも教えていたことがある人だが、今度はなんとイスラエル。先鋭的感度というか、ユニークな周波数をお持ちのようだ。彼は赴任以来、現地の様子をライブでWEBマガジン「パブリディ」http://www.publiday.com 「週間ドドンパ〜イスラエル編〜」に寄せている。イスラエルという国には先入観がある。好意的とは言えない。理解出来ないことも多い。しかし、実際を知っているわけではない。そのイスラエルのなま情報を私は愉しみにしている。

ハイファ大学の歴史学教授イラン・パペ教授を訪ねたことが紹介されていた。
建国以来語られてきたイスラエルの歴史に彼は異議を唱えている人物。「ユダヤ人が入植するまでは、若干の非文明的なアラブ人が住んでいただけで、彼等は苦労の末、西洋文明の国家を樹立した」という説に怒っている。端折って結論してしまうと、イスラムユダヤ教の宿命的な戦いであると考えるのではなく、むしろ近代ナショナリズムの競合として解釈されなければならないと言う。この解釈の仕方の方が光明が見える。

従来の歴史観を覆すような自説を持つパペ教授は、何度も大学を追放されかかっているそうだ。学生が48年時点でパレスチナ人の虐殺の事実を論文にしたところ、単位剥奪、退学の事態を招き、教授は断固弁護し、自らの首が危うくなった。今でも彼は教授会への出席を許されていない。どうもイスラエルの地雷はパレスチナ問題のようである。教授は両民族の和解は48年の建国以前の状態に戻したところから始めるべきと具体的に提案しているらしい。

また「この地に来たユダヤ人の多くはアラブ文明圏から到来し、アラブ語を話した。にもかかわらず、アラブを嫌悪する背後には、彼等を追放したという無意識の罪悪感が横たわっている」…という教授の分析は興味深い。先週末、韓国のドキュメント「送還記」を観た。用件があり途中までだったが、やはり分断された南北の問題を扱ったもの。92年というから最近の出来事。

混迷を深めた問題の根本的解決に向け、危険覚悟で果敢に挑んでいる人々が今も世界にはいるということ。ぬるい日本ではあまり意識に上らないことだ。