歴史を知る意味

森達也著『下山事件』を今ごろ読み終えた。このところの世情が憂鬱で机に置いたまま、なかなか手に取れずにいた。ある日、本を手にして家を出た。私は事件を知らない。1947年当時、鉄道に関しての事件が多発し、未解決なものが多いということぐらいしか。
初めから事件の謎に夢中になり、グイグイ引きつけられる。森達也という人の筆力には感心。熱中しすぎて乗り過ごしたことがあったくらい。

読み終えた後の感想は「怖い」。森氏は「何も終わっていないし、何も変わっていない」と言う。読むうちに下山事件は戦後の混乱期に起きた特別なことではなく、まったく「いま」のことだと気づいていく。いま、はその時代に決まった体制の延長線にある。流れがよく見えてくる。

森流と言えるのは、いつも取材している自分を巻き込んでしまうことだ。彼に降りかかる出来事の数々。そのジタバタも書く。歴史の事件を取材しながら、いまの取材者も絡んでくる。躊躇や戸惑いが感じられる。それが事件をよりリアルに感じさせる。諦めず、しぶとくよくぞ活字にしたなぁと思う。そんな姿勢に元気をもらう。