なつかしさについて

同級生とのひさびさの飲み会があった。二次会で入った今風バーにはビートルズが流れていた。音楽関係の仕事をしているTさんが「ここはマスターが好きで、ビートルズオンリーなんだ」と言い「なつかしいでしょ?」と言った。が、どうも「なつかしい」という感覚とは違う。確かに我々はビートルズ世代なのだけれど…。なぜか?


「なつかしい」という感覚は、過ぎし日にあった特有の空気の喚起だ。なりをひそめていた記憶が一気に呼び戻され、突然にそれらに出会ったとまどいと恥かしさの入り混じったようなうれしい気持ち。それらが「なつかしさ」と呼ばれる感情になるのではないだろうか。その点、ビートルズはいまや日常的に耳にする。いわばポピュラーな音楽になっているので、思いがけずに出くわしたという意外性に欠けるのだ。もうクラシックに近いからね。


それでも「抱きしめたい」とか「プリーズプリーズミー」なんかが突然流れてくると、「なつかしい〜」と感じる。発売されたばかりのシングル版を求めて田舎のレコード屋に走った、あのときの胸の高鳴りやキラキラした日差しが蘇える。昔、自分の好きな女性を表して「なつかしい人」と言った男友だちがいたが、「なつかしい」という感覚の起源を思うとなんだか不思議だ。