大学を開く

神戸女学院大学教授内田樹氏のHPの愛読者である。ちょっと「すごいな」と思うことがあった。いま、まさに卒論の季節。内田教授のホームページには、提出された卒論が載っているのだ。しかも全文である!


教授の指導を受け、苦戦苦悩して提出した、いわば学びの集大成ともいえる卒論。しかし、その論文は教授止まり。膨大な論文はそのあとどうなるんだろう。誰にも目に触れられない。親でさえ見ないのではなかろうか。優秀なものは教授の研究発表の参考資料として採用されるかも知れないが、それはほんの一握り。もったいない限りだ。覗かせてもらったが、データだけでも貴重な資料だと思った。


内田氏は言う。生徒にも張り合いや責任感が出る。それよりも自分の教師としての力量を問われることになる、と。たいしたものだと思う。万人に開示し、彼自身も含めて、評価にさらされる環境を作っている。微妙なテーマや、困難なテーマがあり、彼女等もなにかに挑戦しているという熱意が伝わる。その勇気だけでもまず評価したいと思った。


あえて公表する意義がさらに書かれている。彼は学生に「引用出典を明記すること」を強く指導している。もちろん自身のものに対しても。それは一般人を含む、読み手に対しての敬意と愛、知への信頼だという。同時に、そうすることで、読み手が論理の道筋を辿ることができ、論文に対する批判なり、異議、つまり「赤入れ」を可能にすることでもあるというのだ。適切な指導であり、真っ当な見解だと感服する。