ハルキ国際シンポ(2)

国境の南、太陽の西羊をめぐる冒険(日が経っているので、記憶が曖昧になっていることを差し引いて読んでくださいませ)

次はフランスからCorinne さん。
彼の作品はいままで読まれていた谷崎や川端、大江など、従来の日本文学には属さない。平行性の世界やカフカなど、シュールレアリズムに通じるものもあり、フランスのファンは多い。『海辺のカフカ』は今年の1月に翻訳され、すでに48000部という驚異的な売上げをみせている。翻訳に関しては文体の音楽性やあいまいさの表現などに注意。日本語は主語が私、俺、僕などと多様なので、やれやれというところ。

米国のJayさん。
89年に『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を翻訳し、評価を託した。それまでは明治の近代文学の翻訳のみをしていたので、評価を受けたが、出版まではできなかった。
春樹氏は一時匿名的に米国に滞在していたときに、講演などをしていたようだが、50人ほどの規模に過ぎなかった。ところが最近マサチューセッツなどで講演をすると、大盛況で入れないほどになったという。認知度が急増しているらしい。

また彼の翻訳に関しての話がおもしろかった。日本のなかでの彼の作品のバタ臭さは、英訳すると、消えてしまう。これはどうしようもない。タダの普通の英語にすぎなくなってしまうので、彼の多様するカタカナ語には苦慮する。例えば「カエルくん・・・」「カエルさんと呼んで」という会話などは、「Mr.frog」から「Frog」にしている。
ハルキの作品は、社会性が強いわけではないけれど、どうも社会的危機と連動している。事件後の空虚感などに、共鳴するものがあるのか。

その後の部は、檀上に溢れるほどの各国から参加の翻訳者が並んで、一言コメント。ハンガリーノルウェーインドネシア、スペイン、マレーシア、ブラジル、カナダ、イタリヤ、デンマーク、ドイツ、ベトナムetc.

しかし、世界からすごい人数が集ったものである。デンマークの人は英訳から訳されたものしかなかったので、ぜひ、日本語から翻訳したいと申し出たということだったが、とにかくみなさんハルキの作品に思い入れが強い。それぞれが自分たちの心情を表していると、思いが溢れるようで。全員、司会の方に時間の釘を刺される始末。

休憩時間に展示されていた各国の翻訳本のカーバーデザインやタイトルがまたおもしろい。各国によって、全くイメージが違うデザイン、タイトルになっていたり・・・。

最後は言い出しっぺの四方田犬彦氏のハルキ映画論。彼は作品の映画化には慎重で、OKしないスタンスをとっているようだが、「風の歌を聴け風の歌を聴け (講談社文庫)は発刊から2年後にはATGで映画化されている。大森一樹氏の二作目。坂田明音楽担当、小林薫主演。ネズミにはヒカシュー巻上公一。なんと、シナリオは当の四方田犬彦氏だった!(小林薫はわからないくらい若い!)あとは実験的な作品にパン屋襲撃100%の女の子などがあり、若き日の室井滋などがチラチラ見えた。

ずっと拒否してきた映画化だったが、最近になり市川準監督、イッセイ尾形、宮沢りえで映画化をOKした。なにか変化があったのか。
日本では読者は多いが、あまり評論されず、研究もあまりされていない村上春樹だが、チェコにあるフランツ・カフカ協会からカフカ賞の受賞が決まった。さてこれからどんな変化があるのか、またはないのか。実は正直なところ最近のものは読んでいなかったのだ。だが、再び読んでみようか、という気にさせられた。

因みに、日本側からは柴田元幸藤井省三、沼野光義、四方田犬彦氏が檀上に上がっていた。文芸誌などいくつかのメディアに掲載される予定。