風土と気質

『遥かなるケンブリッジ遥かなるケンブリッジ―一数学者のイギリス (新潮文庫)では数学者藤原正彦氏が一家で経験したイギリス留学の模様を書いている。文化の違いや伝統が生きているその大学や地域についてが、日常の様子から感じとれる。おもしろかった。一度その空気の中に佇んでみたい、と思った。だが、観光では行ってみたいと思ったが、暮らすとなると「うーん」。彼も最初はぶーたれていたが、人との関係ができるに従い、イギリス、イギリス人が好きになっていく。やはりとてもジェントリーな人々なのだった。


彼はいろいろ違いを感じた一年の留学生活だったようだが、最後に日本にもイギリスにも流れている「無常感」という共通項を探す。イギリス人に具体的なイメージがないのでわからないのだが「そうなんだ」と少し意外に思った。緯度が高く、カラッとした日が少ないとすれば、そうかもしれない。彼がそこに注目したのには、信州人であるということが関係しているかもしれないと思った。私も同郷の人である。(彼は他の書で、天才を生む土地柄について言っている)理屈好きだし、手放しの楽観主義ではない。

一時、実家が温暖な静岡に住んだことがあった。すでに東京生活をしていた私は休みに帰省をした。その時に、控えめでおとなしい母がとっても開放的で行動的になっていることに驚いたものだ。まず服装が明るくなっていた。再び長野に戻ったら、また以前の母のようになっていた…。風土は人の気質に大きく影響するのだとその時感じた。

ステッキのように傘を持ち歩くイギリス紳士というイメージは、確かにありそうだ。天候が陰気臭いのだった。グレーでウエットな空気感。当然、温暖にてピーカンな日々を過ごす人々とは育つ文化も違うだろう。国民性というものがあるとすれば、人種というより、風土の影響が大きいのではないだろうか。