点と場所

『風の旅人』という骨太な雑誌がある。編集長佐伯剛氏の話を聞く機会があった。発行はユーラシア旅行社という旅行会社である。しかも編集スタッフは彼を含め極少人数だという。発刊のいきさつや理念と、整理された彼の話は、私をずいぶん励まし、力づけてくれた。濃密な雑誌を出し続けている編集者に一度お会いしたいとは思っていたのだが、私が期待していた以上。と言うより、意外なところが揺さぶられ、自身驚いている。そのイチイチを書かず、いま書きたいことをまず先に書いておこうと思う。

ある人が「ずっと同じ空気感がある」ことについて質問をされた。通巻14号まで出ているが、私もそう思っている。ブレないのだ。佐伯氏は意外と簡単だと答えられた。最初の理念と創刊号を出したあとは、あまり意識せずとも自然に流れていったというようなことを言われていた。なるほどと思う。要さえしっかり止めておけば、ブレないはず。扇子の要理論ですね。
扇子は根元の一点を止めておくだけで、それぞれの動きはある方向に、自由である。バラケない。それもチューブ状で、要自身の周りにも空間ができている。止めるべきは一点。

執筆者との打ち合わせは、依頼のときに理念をしっかり提示し、それに賛同してもらった上での執筆であるため、内容もほとんど手を入れなくて済むという話である。相互の信頼関係がそこには成立しているのだろう。そのかわり、「この人に書いてほしい!」と思う人物しか依頼しない。その「この人」の面々がすごいのだ。白川静川田順造佐伯啓思、養老猛、樺山紘一河合雅雄川本三郎などなど。写真家もそれ以上にすばらしい。しかし、100%OKをもらえたと言う。言われてみれば、あたりまえかもしれない。本物ほどコネや肩書きに根拠を持たない。真摯な気持ち敬意に満ちた振る舞いは伝わるものだ。けれど、そのような姿勢で発刊している雑誌はなかなか見当らない。なぜか…。

で、最後に佐伯氏は今後の構想を話された。扇子の展開は二次元的であるわけで、その位置を変えてみようというわけである。さて、どんな場所に扇子を開き、どんな風が吹いてくるのだろう。